1.試験場の環境を把握する

試験が近づいたら、夜型の人は朝型に直せということをよくいわれる。試験はたいてい午前から午後にかけて実施される。夜型のままでは、試験当日のその時間にぼんやりしてしまい、せっかく持っている能力も十分発揮できなくなってしまうのだという。

それほど大げさな話ではないが、実際に試験が行われる時間に、集中持続力を最大限発揮するためには、身体のリズムをそれに合わせる必要はあろう。それと試験場の環境をある程度、把握しておくことだ。

そこで述べたように、室内の温度でさえ、極限のレベルでは試験の合否を左右することもある。試験場はとても暑かったり、これが逆にクーラーがききすぎていたとしても、コンディションは悪くなる。夏なら当然薄着で出かけるが、もし事前にそれがわかっていれば、上着を用意していくこともできる。

人間は体調や環境によって、ずいぶん影響を受ける。どれほど集中力を発揮できるかどうかも、それによって大きな違いが生じる。

試験では、合格者と不合格者との実力の差は紙一重である。試験場でのちょっとした差は、合格と不合格の差となってしまう。最大の集中力を発揮できる状態をつくるには、試験場の様子をあらかじめ調べておくことが必要だ。

暑いのか寒いのか、照明や騒音はどうか、細かなところまで調べておくと安心できる。
ほとんどの国家試験は、たいてい、毎年同じような条件のもとに実施される。それならば、わざわざ自分の時間を削って会場の下見をしなくても、前年受験した人から様子を聞けばいい。この場合、かなり詳細にわたって試験当日の状況を教えてもらうといい。

そのような知人がいない場合は、自分が受験する会場に直接問い合わせてみる。もし応じてもらえない場合は、たとえば室温の問題なら、その場の状況に応じて服を脱いだり、何か着込んだりできるように、臨機応変の準備をしていく。さらに何か不安事項があったり、あまり行き慣れない場所を試験会場に指定されている場合は、少し早めに家を出るようにする。

よく時間まぎわに会場へ息せき切って駆け込んでくる人を見かける。これでは、平静な状態で問題と取り組むまで相当な時間がかかってしまう。こうなっては、はじめから大きなハンディを背負ったことと同じだ。

また、基本的なことではあるが、試験会場への持ち込みはどのようなものが許されているかもきちんと確認しておく。筆記用具は万年筆、鉛筆、ボールペンのどれかに指定されているかどうかという予備知識を得ることも大切である。筆記具が指定されているなら、模擬試験を受けるときからそれに使い慣れておきたい。
試験に関することは、どんな小さなことでも甘く見ないで、準備を怠らないようにしたい。


2.「あがらない」ために何をするか
「あがってしまったために、試験で実力を発揮できなかった」という話もよく聞く。しかし、少々疑問を感じる。

「あがる」ということは、一般的にいえば、のぼせて落ち着きを失い、平常通りにいかなくなってしまうことである。

しかし、こと試験に関して、本番であがってしまうというのは、結局、事前の対策が不十分だったということだと思う。
自分で納得できるくらい、試験までに十分に勉強し、万全の準備をして試験に臨めば、まずあがることはない。

しかし、1+1=2という公式しか学んでいないのに、突然、「100の100乗を計算しなさい」という問題が出されたとすると、「さあ、大変だ」と突然、あせりが出て平静を保てなくなってしまう。その結果、他には完全に解くことのできる問題があるにもかかわらず、カーッと頭に血がのぼった状態のため、それさえ計算できなくなってしまう。

つまり、事前の実力不足、準備不足のまま受験する→自信がない→落ち着きがなくなる→配られた問題に平常心で立ち向かえず、あせりが出る→パニックになる、という順序で、「あがる」という心理状態に陥ってしまう。

この「あがり」を防ぐ方策はそんなに難しいことではない。
要するに、「あがる」という要素を、一つずつ排除していけばいい。
まず、せっかくの資金と時間を投入して受験するのだから、自分で納得いくまで学ぶ。実力不足と思えば、ラストスパートをかけて「やるべきことはやった」と言えるまで頑張る。

また、自分がどのような環境のときに一番集中力を発揮できるかをよく把握しておく。あらゆる情報網を駆使して、正確な試験情報をできるだけ多く仕入れる。ここまでやれればまず「あがる」心配はなくなる。

しかし、中には、これだけやっても心配だという人もいるかもしれない。そういう人は、「私はあがり性だから……」と自分自身を決めつけていることが多い。これは自ら「私は試験場では必ずあがる」と自己暗示をかけてしまっているのである。

それを人にも言い訳がましく言う。このような有害な自己暗示を続けていると、それこそ、試験の「シ」の字を聞いただけでも、心臓がドキドキしてくる。

試験本番で自分の能力を十分に発揮するためには、緊張感をうまく利用することと同時に、多少の開き直った気持ちも必要だ。

それでも、どうしても「あがる」という自己暗示が解けない人は、「スランプ脱出法」を使ってみてはどうか。スランプが起きたときの場合に備えて、映画に行くとか音楽を聴くなど、自分がやりたいと思っている楽しいプランをあらかじめ立てて、それを待つような気持ちでいると、スランプはなかなか起こらないというものだ。

これを利用して、自分があがったときにやることを決めておく。
たとえば、試験場でするべき答案作成などの作業を、できるだけ事前の準備で、機械的にやれるようにしておくのも有効である。

司法試験の論文式の例でいえば、まずわからない問題が出たら、条文はどうなっているか、その条文の立法趣旨はどうなのかなどと考える順序を決めておけば、比較的スムーズにいき、そのうちに落ち着いてくる。

そうすれば、たとえ、「自分はあがっている」と感じても、「ただし、これをやれば致命的にならない」とそれを打ち消す自己暗示をかけることになる。できるだけ早めに試験場に着き、深呼吸をするなどして余裕をもって静かに開始のベルを待てば、まずあがらないはずである。
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