親として人気のある職業と本人が就きたい仕事には共通点がある
高学歴、超高偏差値エリートが、賃金面で報われていないということを多くの実例で証明されている。
中央官庁キャリア官僚も、大企業のエリート杜員でも、報酬は恵まれていない。
特に日本の企業風土では、役員報酬が異常に低いことが指摘されている。収益は、内部保留に持っていくか、設備投資などの拡大再生産に持ってゆくかして、とにかく会社を大きくすることが既定路線である。最近でこそ、株主様への配当とか、従業員への給与とかに流れができつつある。
しかし、あのトヨタの役員平均報酬が六千万円強であるのに対して、経常利益が4割に過ぎない日産のそれは3億2千万と5倍である。もっともこれはたった一人のボスの非常に高額な報酬が役員全体の報酬の平均値を持ち上げたからなのであるが。「御雇い外人様」の経済効果が発揮されたものである。むろん会社の規模からすれば、役員報酬の総額は微々たる物であろう。今後、こういった方向性に加速がつくのか、株主の反発がどのように出てくるのか。興味あるところである。
いずれにせよ、エリートといわれる勝ち組正社員でも、官僚でも、また、その中でも勝者の勝者たる役員でも、日本では報酬は少なく見積もられていることには相違ないらしい。もちろん、アメリカとの比較にすぎない。過去の日本ではもっともっと、経営管理者の給与は少なかったはずである。
熾烈な競争を勝ち抜いた受験戦士たちの生涯賃金について、一流大学と二流以下の大学卒業者との比較では、思ったほども開きがないようである。しかし、一流大学卒でなければ、官僚にも、大企業のエリート・サラリーマンにもエントリーしにくいのも事実であろう。
「高卒の中小企業経営者、勉強の努力をしてこなかったスポーツ選手やタレント、学歴とは無関係の開業医が高収入を得ている」のは我慢がならないようである。尋常ならざる受験勉強と、教育につぎ込んできた費用を考えれば、偏差値エリートがいかにこの日本の社会では冷遇されているかが論考されている。この三つの頭文字をとって、EEM(イーム)と称する階層を提唱された。
このイームが報われない社会が、学歴崩壊社会であり、誰も努力するものがいなくなる「ギャンブル社会」が日本の将来像である、と看破されている。その結果は、稼いだ金の多寡が支配する社会、とのことである。この中で述べられている努力とは、受験勉強のみを指しているのだと思う。
しかし、触れたように、スポーツ選手になるために要する努力、難しさ、また、選手生命の短さなども考慮すべきであろう。中小企業の経営者が、皆さんリッチとは到底考えられない。少数の成功した社長さんは、少しばかりの運と人並み以上の努力の甲斐があってのことだと思う。
百歩譲って少々リッチな零細企業主と考えてみよう。親の代からの継承が多いということを指摘されているが、世襲制では決してない。少なくとも医師免許は努力なくしては得がたい部類に属する。
小企業の経営者にしても、開業医にしても、皆起業に関するリスクを背負って立地しているのではなかろうか。業を聞くということ、どんな場合でも、元手が必要ということは常識だと思う。
ここで、リスクを前に躊躇するのであれば、起業家を目指すべきではないだろう。リスクを忌避し安定性を追及するためには、高学歴=資格と考え、それを生かした大企業に就職するか、官僚を目指せばよいと思われる。そういった考え方も含めて、教育、訓練、費用を多面的に分析して、たぶんに幼稚なアイデアではあるが、その効果を生涯賃金ということで考察を加えたつもりである。
その結果が、資格取得の困難さや高偏差値の卒業大学に見合う、パラレルに相関するだけの生涯賃金ではない、という現実が見えてしまった。かといって、学歴社会が崩壊したと嘆いて始まるものではない。少なくとも、ある種の職業に就くためにはどうしても取得しなければならない国家資格・免許が必要条件として存在する。一流企業の正社員の地位を得るためには、それなりの大学を卒業することが必要条件となっているのも現実ではないだろうか。
親として、わが子になしえることは、教育にどれだけ心血を注げるかではないかと思う。教育に関わる費用、情熱を客観的に検討して、いくらかでも良いと思われる環境を整備してやることが親としてのひとつの愛情表現ではないだろうか。
一方、お父さんお母さんたちはわが子をどのような職業に就かせたいと考えているのであろうか。子供と違って現実性のみが大きくクローズアップしてくるのは当然である。その根底にあるものは、経済的な安定ではないだろうか。小企業よりは大企業を、また生涯賃金の多寡も論議の焦点になるだろう。
厚生労働省発表の賃金基本調査によれば、従業員数百人未満の企業の中卒と千人以上の企業の大卒との賃金はそれぞれ、月額30万円以下と60万円以上であり、その格差は歴然としている。
あるいは公務員が、安定性の面からは絶対視されやすいだろうし、同じ公務員ならば、官僚のような上級職を望みたいかもしれない。
また、サラリーマンよりは、国家資格を手にして専門職として独立も視野に入れたいと願うかもしれない。医師、薬剤師、看護師、建築士、弁護士、美容師、調理師なども希望が多いことであろう。さらにはパイロットや、客室乗務員に対する憧れも多いと思われる。
現実路線より夢を追いかけると言うわけではないが、プロスポーツ選手やピアノの先生も根強い人気がある。
このようにして、親にとっても子供にとっても、現実味のある職業選択肢はある程度絞り込むことができるようである。夢の部分であっても、野球選手のように達成しうるようなコース設定が可能な場合は取り上げている。
同じ夢でもタレントや歌手、俳優などのように成就するのに努力以外に不確定な要因が支配しうる職業は除外した。さらに、現実に、その職業に就くための具体的な手段や難易度を検討した。
ここで言う難易度とは、正規の学校での学習以外の塾や予備校などでの勉強時間、練習やトレーニングに要する時間を合算し、さらに達成に際しての競争率を積算したものである。
一方で、教育の費用については、達成に際しての学習時間、練習時間を各々の平均的な単価で積算した。具体的には、塾などの送り迎えに要する時間、あるいは野球やサッカーなどの練習や試合に要する時間を平均時間給で積算して所要費用に合算した。ただし、習い事に関する道具代といっては失礼に当たるかもしれないが、野球用品などのスポーツ用品代や、ピアノなどの楽器代は参考程度にしか考慮していない。
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