生涯賃金を職業ごとの難易度と合わせて徹底比較したまとめ
営業職
製薬会社生涯賃金 3億1千万
難易度 高い
営業社員というと、なりふり構わず売って、売って、売りまくる、というイメージがある。接待攻勢などで、顧客に張り付くような営業の権化が、製薬会社の昔のプロパーといわれる、ちょっと特殊な職業であったようだ。
現在はMR(メディカル・レプリゼンタティブ)と名前を変えて、薬品の情報を提供することのみが仕事になっている。そんなに新しい情報が常に発生しているわけでなく、また、新薬なんてものはそうめったやたらに開発されるわけでもない。したがって、本来の仕事が非常に少ない。かつてのプロパーの専売特許のような、顧客である医者の便利屋のような作業は不当な廉売に当たるとして、また、接待もご法度、さらに営業社員であるにもかかわらず、仕切り値段の交渉も一切しない。
こう考えると、営業職ではない。なんかの専門職のようにも思える。しかし、MRは他の職業からの転職組が非常に多いのが特徴である。昨日まで車を売っていたものが、今日から薬を売り歩く、いやお薬の情報提供に回るのである。あんまり専門職でもなさそうだ。
営業社員ではないが、顧客を回っておかなければ、いつの間にか他社製品に割り込まれてしまうので、営業活動に回らざるをえない。やはり営業社員である。顧客の医者の診察時間中には訪問できない。したがってガード下の日陰でエンジンを吹かせてじっと待つのも仕事のうちである。こういったわけで、一日に回れる営業先はごく少数である。
仮に薬品情報を提供して回らなければならないことがあったときには、一人で多くの担当先を抱えているので、すべての得意先を回ることなど到底できない。もしも、本当にそのような情報を提供して回る必要が生じたときには、ダイレクト・メールですんでしまうはずである。
現在、医療費31兆円のうち、薬剤費は3割、8兆円を占め、その大半が人件費である。その人件費は、最も人員比率の高い営業社員によって占められている。実際にはほとんど仕事がないような営業社員の人件費が医療費抑制策の槍玉に上がらないのが不思議である。
薬剤費は薬価制度といって、政府が値段を決定する。開発にいくらかかったかは知らないが、とうに元を取っているはずの薬品に対しても高い値段が保障されている。これで儲からないほうがおかしい。
各製薬会社の営業利益率、粗利といわれるものは非常に高率であるのが特徴である。
製薬会社の社員の年俸は勝ち組、負け組の企業で大きな開きがあるが、1千万円以上という例も少なくはない。生涯賃金は3億数千万円以上に達する例もあるようである。
東洋経済新報社『会社四季報』によれば、経常利益率が上位十社の内、半数が製薬会社で占められていることが何よりも象徴的である。
広告代理店生涯賃金 2億5千万
難易度 低い
広告代理店には、大は電通などの超メジャーから、小は新聞の折り込み広告取次ぎまで、企業数も多いが、その規模の大小は非常に開きが大きい。文化系学部の大学を卒業し、ある程度入社試験などで選別されうる企業規模の代理店を取り扱うこととする。
業務内容としては、電波媒体(テレビなど)や、紙媒体(新聞や雑誌など)の広告を取り扱う。一件あたりの取引金額は巨大であるが、いくらもクライアントがあるわけではなく、獲得競争は熾烈である。
営業活動は深夜に及ぶこともあり、拘束時間もいきおい長くなる。
現在の日本で消費されている広告代金というのは、年間5兆8571億円。実にGDPの504兆5893億円の1パーセント強を占める。
(株)インテリジェンスによれば一般的な営業職としての平均的な報酬は、40歳で654万円である。
35年間の生涯賃金は3億円以下ということになる。
管理職
金融業生涯賃金 4億
難易度 高い
一般社会において、管理的なイメージのある職種の代表が金融、保険、不動産業であろう。ここで扱う管理職とは、会社の幹部社員のような管理職ではなく、人様の財産などを管理する職業という意味である。そして恐らく、一般的なサラリーマンとしては、今も昔も、最も高給を得られる職種ではないだろうか。
かつて銀行などの職員は、顧客のお金を預かるという性質上、一般的なサラリーマンよりは多少なりとも手厚い給与で遇する習慣があった。他の保険業などでも同じような給与体系であったようである。
一般職と総合職というヒエラルキーが歴然として存在し、最近では、嘱託社員というパート職員がこれに加わる。以前は、金融業務にパート職員をあてがうことなどは考えられなかったことである。
金融不安の嵐が吹き荒れ、淘汰による業界再編が進んだ。ただ一人の学者兼大臣のプロデュースであろうか。生き残りをかけて、客から法外な手数料を徴収し、またお上から公的資金という名の補助金まがいの援助を得る一方、リストラという名の首切りの結果、嘱託社員という人件費節約の切り札登場となったようである。
総合職としての賃金を検討する。会社の屋台骨が崩れることなく、リストラの波に飲まれず、定年まで無事勤めおおせれば、その生涯賃金は4億円以上に達する。行政府の最も大きな仕事は、国民に安心を与えることである。金融に不安を植え付けるような為政者は今後登場する可能性は少ないであろう。一方で、業界の再編成は究極まで進んだ。したがって、今後の安泰は揺るがないものと考えられる。
転職支援業務を行っている株式会社インテリジェンスによって、職種別の平均年収が公表されている。一例として、40歳のランキングを参照してみた。1位は投資銀行で、1474万円。不動産金融、金融コンサルタントで1千万円に近い。銀行、信託銀行、生命保険でいずれも800万円以上を確保している。
損害保険生涯賃金 5億
難易度 普通
銀行よりも、さらに給与が手厚い業界である。最も大きい市場は運輸関連である。損害保険、保険の起源がイギリスの海運のリスクヘッジにあるわけで、輸送関連の危機管理の根底をなす設計思想がある。
大航海時代を経て、貿易を制するものが世界を制覇した時代にあって、危険の多い帆船による海運を成功させることが国策となった。「一航海」無事に終われば莫大な富をもたらし、難破すれば大きな損害をこうむる。ここに損害保険が始まったのである。
社団法人日本損害保険協会によれば、本邦で最初の損害保険は、安政6年(1859年)横浜で、外国保険会社によって開始されたのが起源である。爾来、海運を初めとして各種損害保険の販売を拡大してきた。
然るに今日、小は交通事故保険から、大は航空機事故まで、その守備範囲は広大である。現実に、航空会社や海運会社の筆頭株主は損保会社であることが多い。ところが航空機事故や鉄道事故などはめったに発生しない代わりに、その補償金額は天文学的なものとなる。とても一社において担保しうるものではない。
航空機単独事故としては、日航ジャンボ機の御巣鷹山墜落事故が、規模の大きさ、悲惨さにおいて有名である。しかし、実際の航空機事故の保険は、満席のジェット機が石油化学コンビナートに墜落し、火の海になるような被害も想定されている。そこで各事故に対しての保険金支払いを保険会社相互において担保し合う制度があり、監事会社として有名なのがイギリスのロイズ社である。
まさに護送船団方式そのもので、リスクヘッジを扱うプロが自身の危機管理をなさぬわけがないのである。ここに、損保会社の自己保全の体質があると見なければならない。まずは会社の相互保護なのである。したがって、各損保会社においての競争は存在しにくい。商品価格を下げて、顧客を奪い合うという観念になじまない。いかに保険金を出し渋るかに各会社の利益確保のインセンティブが働くのである。
前述の損害保険協会によれば、平成16年に集めた保険金額は7兆4120億円。このうち、自動車保険と自賠責保険の両者でおよそ6割を占める。4兆6560億円である。ただし、支払われた保険金額の総計は、わずか1兆7600億円に過ぎない。なんと6割が利益になる計算である。
競争の原理が介入しない以上、保険金額はお手盛りとなり、会社の利益は人件費に反映されるようになると考えてよい。年間報酬が1500万円を超えるような例も少なくはなく、生涯賃金は5億を超える例も珍しくはない。
損保会社は、あらゆる商品開発を行う。一例を挙げると、産業廃棄物が適正に処理されなかった場合の損害保険である。産業廃棄物は、それを出したものが最終責任を負うという法律が可決成立した。一見、ごもっともな話であるが、処理を請け負った産廃処理業者が不正に廃棄した場合でも、排出者に損害補償義務が発生するのである。そのための保険である。なぜ不正に処理した業者にお答めがいかないのか理解できない。
他にこんな保険がある。個人情報が流出した場合の損害補償に対する保険である。個人情報を含んだパソコンなどが盗難にあった場合でも、その管理者に有責とする法律ができたためである。なぜ個人情報を盗んだものに賠償責任が生じないのか不思議ではある。
誰もこんな保険は買わないだろう、と思うような珍しい商品であるが、現実には医療機関がひっかかっている例が多い。不安を煽られると弱い業界なのであろうか。ここで注意すべきは、変な法律ができればすぐさまその弱みを突いて、保険商品を開発して売り込むという遅しさである。
税理士生涯賃金 4億
難易度 高い
税務を通じて人様のお金の管理を行う業務である。まさに小規模ながらも管理業務そのものである。
税理士と言えば、街中で会計事務所などを開業しているイメージがあるが、最近では一般企業内でも税理士の資格を持って勤務している例も多く、また、大手会計管理会社に勤務する例も増えてきている。
ほとんどが大学の経済系学部を卒業し、そのまま、専門学校などに通いながら五科目の国家試験合格を目指す。経済的に自立できないので、主に夜間に通学する。したがって、なかなか合格は難しく、晴れて免許を手にするのは30歳台半ばである。一方、大学院に進学し、ここで論文審査を受けて認められれば、二教科免除となり、残り三教科の試験を目指す。多少は試験勉強期間の短縮につながる。
以上、大学卒業後、夜間の専門学校に10年通学するとして、400万円ほどを要する。仮に大学院に進学し、専門学校の通学期間が半分の5年で済んだとしても、やはり400万円程度は必要となろう。
日本税理士会連合会によれば、平成18年現在、6万9174名の税理士が登録されている。このうち3割が東京圏内に集中している。
税理士の免許を手にした後、会計事務所での勤務の後、個人で開業するのがさらに10年後。この間の報酬が1億円、開業後の収入はクライアントの数に比例するが、助手を雇っても一人の税理士のこなすことができる件数には限りがある。申告時期にのみ異常に繁忙を極めるからである。30年間働くことができても、3億円強程度が限度ではなかろうか。生涯賃金は4億円弱程度と推定される。
建築士生涯賃金 3億5千万
難易度 高い
建築士という資格には、一級建築士と二級建築士のカテゴリーがあるが、一級建築士について記述する。
4年制の大学工学部建築学科を卒業後、設計事務所や建築会社に就職して、実務や経験を積んだ上で、国家試験に合格して免許される例が一般的である。もちろん大学の工学部を卒業することは必要条件ではないが、資格を得るための最短コースではある。とは言っても、最低でも10年ほどは要する。
この一級建築士の資格であるが、国家試験の合格率は実に1割である。よって、合格までの所要年数は10年と試算した。現在32万人が登録されている。廃業しても登録抹消の制度がないため、実数はもっと少ないそうで、29万人。アメリカの倍以上の人数で、世界で最大の「建築家大国」である。
ただし、日本建築士会連合会によると加盟は10万6000人強で、あまり組織率は高いほうではない。また、日本建築士事務所協会連合会によれば、加盟は1万5千ほどに過ぎない。
卒業後、建築会社や設計事務所に入社してからの年俸は会社の規模により大きく異なるが、500万円として10年間で5000万円程度であろう。独立して自分の設計事務所を開業した場合、その報酬は請け負った作品の金額の数パーセントである。したがって数をこなさなければ収入としては満足を得られない。
一方で、雑に多くの物件を請け負えば作品としての価値は相対的に低くならざるをえない。
こういった芸術家的な側面を併せ持つ職業といえる。数千万円程度の住宅の設計管理に対する報酬が500万程度であり、年間に一人の建築家がこなすことができるのが二件程度であれば、年間報酬は1千万円に留まることになる。また、住宅着工後は休みなく現場と事務所に張り付くように拘束されるわけである。また、助手などの従業員を雇用する必要が生じ、この人件費も小さいものではない。
よく比較に取り上げられるのが、不動産業者の仲介手数料である。たった数時間の手間賃が、売買価格の6パーセントである。一級建築士が1年近く現場に張り付いて得る以上の報酬を、時間で比較すれば一瞬で手にしてしまう。何の技能も技術も知恵も工夫も、国家資格免許もなくてである。「話術」と言う才能もあるにはあるのだろうが。
また、売買とはいえ、他人の持ち物(土地)を他人に仲介するだけである。在庫なし元手なしの商売ゆえ損することは絶対に無い。誤解が無いように記載するが、手数料率の、この6パーセントという数字は、上限なのである。だから、もっと安く値切れるはずである。しかし実際には、素人には承知され
ておらず、黙ってとられているのである。これが独禁法にかからないのが不思議ではないか。
逆に大手建築会社の一級建築士の年俸は、勤続年数14年、40歳で800万円に達する。その月間の平均従業時間は160時間程度である。こうしてみると、建築家として独立しても、建築会社の設計士として働いても、あまり報酬としての差はないかもしれない。卒業後30年働くことができるくらいまで昇給があったものとして、生涯賃金は三億数千万円程度という計算になる。
パイロット生涯賃金 4億5千万
難易度 高い
厚生労働省による職種分類では、航空機操縦者として一括されている。旅客機の主パイロットについての記述とする。パイロットになるにはいくつかの方法がある。航空大学校を卒業し、航空会社の操縦士の採用試験に合格する方法。これが一般的である。
また、この採用試験は一般大学の卒業者にも受験資格がある。他に、航空自衛隊に入隊し、パイロットの資格を得て、航空会社に採用される方法などがある。資格としては事業用操縦士の免許が必要である。また、航空機の機種ごとに免許が異なる。コ・パイロットといって、副操縦士の免許、事業用航空機操縦士を得て、十分な経験を積んで正操縦士の資格試験、定期運送用航空機操縦士に合格する必要がある。
20年ほどの長い年月を要し、平均年齢は43歳と高齢である。むろん、航空会社の社員であるので、正パイロットになるまでも十分な収入は保証されているのであるが、その責任の大きさからか、一人前になるまでは長い年月を要するのであろう。
国際線航空機の操縦室に招待されたことがあるが、操縦中の正、副パイロット、航空機関士の御三人とも老眼鏡を装用しておられたことが印象に残っている。飛行士=視力がいい、というイメージではなかった。もちろん遠見視力は非常によろしいのであるが。大手航空会社の操縦士の平均年俸は1700万円で、その平均月間従業時間数は131時間である。
責務の重さゆえに収入も大きいと考えられる。定期的な資格審査、身体検査はいかなる職業よりも厳しいとされているが、25年間、健康で勤務できれば、生涯賃金は4億5千万円を越える。
一方で、採用試験の厳しさも半端ではない。また、航空不況といわれる時代もあったようである。航空大学を卒業したものの、新規採用が国内では皆無であった年もあり、他の職種に就いている事例もある。
エンジニア生涯賃金 3億5千万
難易度 普通
技術者であるとか、何らかの開発に携わる専門家として捕らえられていることが一般的である。最近では、エンジニアという言葉からはSE、すなわちシステム・エンジニアを連想することが多いであろうが、ここでは単に開発技術者について取り上げてみる。
大学の工学部を卒業し、技術系の会社に入職して、設計開発部門に配属される例は最近ではむしろ少ないと考えられ、修士課程の大学院の卒業者が多い。いきおい高偏差値大学に集中する傾向が強い。したがって、入学後の教育費は、国公立で6年間300万円。私学で、700万円に達するものと考えられる。
さてその生涯賃金であるが、あくまでも、物を作るという産業に携わる以上、好況不況の波があるのは避けられないであろう。また、とんでもない技術革新により、現在生産しているものが一夜にして過去の遺物になってしまうこともありうる。
イノベーションの波に飲まれることなく、会社も順調に業績を伸ばし、30年間無事に勤めおおせれば、その生涯賃金は3億5千万円程度に上る例もあろう。金鉱を掘り当てたような発明の功を独占し、会社に対して成功報酬要求の訴訟を起こし、とてつもない収入を得る例外もあるが。実際には、多くの真面目なエンジニアたちの地道な日々の努力の積み重ねで、今日の技術大国ニッポンがあるのは疑いのないことである。
発明、工夫、熟練、こういったオリジナリティーの集積は、日本古来のものと誇るべきである。その基底にあるのは勤勉と熟練である。違法なコピー商品ばかりを大量生産することが国是となっている国も存在するが。為替差益による人件費の法外な安さにつられて、生産設備をそういった国に移した企業のリーダーは、亡国の徒とそしられるのか。
テレビ会社生涯賃金 5億1千万
難易度 高い
給与所得者の中で、今日最高額を占める事例がほとんどである。ただし、正社員の比率が小さく、請負会社や、その場だけの嘱託的な雇用者が多く働いている職場であろう。一例として、フジテレビが公表している資料によれば、年間の売り上げ3760億円に対して、社員数はわずかに1387名。すなわち、1名あたり3億円に近い成績となる勘定である。
番組などはいわゆる「製作会社」に下請け製作させている例も多く、必然的に、発注者と請負側の力関係が如実に現れる。貴族と奴隷にたとえられるゆえんである。マスコミ社会は縁故が強く、特にテレビ会社には顕著であるという。したがって入社試験は極めて難関である。週刊ダイヤモンドによれば、上場企業の平均年俸上位50社の内訳ではマスコミが11社を占めるが、
ほとんどはテレビ会社である。いわゆるキーステーション以外にも、朝日放送、中部日本放送、毎日放送などのローカル局の健闘も著しい。
40歳強、勤続20年で平均年1500万円。これを基にすれば生涯賃金は40年で、五億円以上か。
本俸以外に厚生などの諸手当が非常に手厚いのが特徴である。
新聞社生涯賃金 4億
難易度 高い
世界で最も発行部数の多い新聞は、日本の読売新聞である。以下、朝日、産経、毎日と大手四紙はいずれも、世界の上位十位に入る。旧ソ連時代の、マスコミ統制の最たる。フラウダ紙ですら足元にも及ばない。それほど日本人は新聞好きである。他に地方新聞、お父さんの出勤のお供のスポーツ新聞、夕刊紙、さらには経済新聞を愛読される方もいらっしゃれば、宗教新聞、業界紙など、新聞の発行部数は半端な量ではない。
以下の実数は、日本新聞協会によるものである。
年開発行部数実に7千36万部。人口千人あたり644部である。アメリカは233部、イギリスは351部である。ノルウェー650部、スウェーデン577部、フィンランド522部、デンマーク413部と、北欧諸国は新聞普及率が非常に高い。発行部数が多い国は中国で、8千865万部であるが、人口当たりでは日本の8分の1である。
新聞の売り上げは2兆3800億円。そのうち32パーセントの7千549億円が広告収入である。興味深いことに、新聞紙の表面積のうち広告が占めるのはほぼ同じ37%である。ただし、付随する折り込み広告などを含めると、実に1兆559億円が広告費である。
さて売り上げの4分の1が人件費にあてがわれている。6千億円ほどであるが、従業者数5万2683三名で、単純平均で一人当たり、1150万というのが年俸ということになる。生涯賃金は35年でほぼ4億円に達する。
法曹関係
弁護士生涯賃金 5億
難易度 高い
法曹三者のうちで最も就業人口が多いのが弁護士で、現在2万人が登録されている。他の判事、検察官と違って多少は身近な存在であるが、人口当たりでは、訴訟大国のアメリカの26分の1で、百万人というかの国には比較にならないほど少ない、スペシャリティーである。
このたびの司法制度の改変にともない、弁護士の増加が見込まれているが、実際には外国人弁護士の増加が先行している。外国法事務弁護士が、1998年の51名を皮切りに、2005年には250名と5倍以上に増えた(日本弁護士連合会)。アメリカ通商代表部の年次改革要望書にしたがって、日
本でもアメリカの弁護士さんたちが活躍できるような、司法制度の改革という名の環境作りがなされている。
外国との企業間訴訟が主な目的と察せられる。しかし、フランシス・フォード・コッポラ監督の映画「レインメーカー」に描かれていたように、弁護士が仕事を取るために救急車を追いかけるようなお国であれば、今後、彼らは大挙して上陸してくるかもしれない。
そうなると、日本の正義の味方の弁護士さんたちの立場はどうなるであろうか。おそらくこの国で課せられるあらゆる試験のうち、最も難関の司法試験に合格して、司法修習の後、弁護士となる。法学部卒業後、数年間の試験勉強期間を乗り越える必要がある。司法試験に合格するまでに要する平均年数は7年として、その間専門学校や、最近新設されたロースクールでの費用を合算すれば、1千万円ほどを要する見込みである。
平成16年に始まった司法制度改革で、今後爆発的な弁護士資格者の増加が見込まれる。日本に展開している外国法律事務所がこういった新人弁護士をリクルートすることで、アメリカの言いなりの司法制度改革、訴訟社会を形作る第一歩になるかもしれない。
この司法制度改革は、マスコミなどでは陪審制度ばかりがクローズアップされているが、これは付け足しのようなもので、実際にはこのアメリカの法律事務所の日本へのマーケット展開が本当の姿である。
そもそも、クレージーとも言われるようなアメリカ型訴訟では、特に企業に対する損害賠償額は天文学的な数字である。アメリカでは、こういった民事に関しても陪審制度がある。
しかし、このたび持ち込まれる日本の陪審制度は刑事裁判のみである。こんなものは訴訟マーケットからすればまったく金にならない。また、アメリカの企業が訴えられでもしたら、それこそ陪審なんてことで、素人にやり込められたらかなわない。だから、民事には日本の陪審制度は導入されなかった。いや、させなかったと考えるべきであろう。レトリックが大好きな日本では、「陪審員」とはいわずに「裁判員」という正式名称がある。
日本弁護士連合会の統計によれば、弁護士の平均年齢は50歳、25歳未満という例外も少数ながら存在するものの、20歳代は7パーセント程度である。半数が個人開業であり、企業弁護士は1パーセントに過ぎない。興味深いのが、地域格差である。東京に全弁護士数の4割以上が集中している。
一般に弁護士さんといえば、非常に難しい試験をパスした、極めて高度な専門職ゆえの高所得というイメージがあるが、企業の法務顧問弁護士に代表されるような、会計関連で取り扱い金額が大きい弁護士さんが、極めて高額な報酬を得ているために平均収入が持ち上がっているのである。
これも日本弁護士連合会の統計であるが、年間報酬5千万円以下が全体の6割を占める。1億円以上の申告所得の弁護士さんが6パーセント存在する。このため、平均所得は4千万円近くになるが、年収2千万円前後が最頻値を占める。したがって生涯報酬は5億円程度になるものと考えられる。
7割以上が何らかの顧問契約を持っており、そのうち半数が20件未満である。また、1週間の執務時間は半数が50時間未満であり、その内、実際の裁判所事件に関わる時間はさらに半分とのことである。
以上は日本弁護士連合会の公表した、全国の会員、すなわち弁護士さんに対するアンケート調査の結果である。注意しなければならないのが、ほとんどの項目では「無回答」はないものの、この収入に関する質問事項に関しては、1割くらいが「黙秘権」を行使されている。したがって、年間報酬に関しては多少のシフトが予想されるのではないだろうか。
裁判官生涯賃金 7億
難易度 高い
司法試験に合格後、司法修習を終えた後、裁判官として任官する。超難関の司法試験に合格するという点では、弁護士さんも判事さんも同じである。判事補を経て、判事となる。家庭裁判所から、地方裁判所、高等裁判所、最高裁判所というヒエラルキーがある。
面白いのが、江戸時代のお奉行様の感覚が現代に生きているという点である。失礼な物言いを許していただければ、どんな小さな地方裁判所の所長であっても、運転手が付く。また、その官舎は、一般社会ではなかなか経験できないようなお屋敷があてがわれる。都会であれば、家賃に計算すれば恐らく年間1千万円は軽く超えるような住宅が珍しくない。また、専属の運転手の人件費はやはり1千万円はかかってしまうのである。もちろんご本人は、運転手や、官舎の費用は自身の報酬とは理解していないと考えられるが。
したがって、判事様の年俸としては、2千万は上乗せする必要がある。本俸が2千万円であれば、4千万円という計算になる。任官当初の年俸が数百万円としても、地方裁判所の所長や、高等裁判所の幹部まで上り詰めることを考えれば、最終的な年俸は4千万円程度にも達するものと想像される。また、勇退しても定年後であっても、弁護士さんとしての法曹活動は可能である。このように考えれば、賃金は7億円以上になる例も珍しくはない。
ピアノ講師生涯賃金 1億5千万
難易度 高い
芸術を職業とする最も身近な存在がピアノの先生ではないだろうか。ピアノ講師になるには、音大や芸大の音楽科を卒業し、修練の末、音楽会社の入社試験に合格するか、ピアノの講師の資格を取得した後、個人のピアノ教室を開業するかであろう。この場合でも、音楽教室の補助講師などを経て、ある程度お弟子さんを獲得してから、独立することが多い。
そもそも、音大に合格するために、幼少時より十数年にわたってピアノを習うことが必須である。このレッスン費用が、幼児で年間20万円、小学校高学年から中学校までには年間50万円以上要する。
さらに高校生からは、音大受験専門の個人教授を受けることが常識となっている。ほとんど毎日、何がしかのレッスンがあり、専門教授のワン・レッスンが2万円を要するものもざらにあるとのことである。
したがって、大学入学までに要するレッスン費用は1千万円以上、大学卒業までに要する学費は公立大学で4百万円、私立大学で7百万円以上を要する。個人で海外留学などを目論めば、さらに年間数百万円は必要となろう。
ピアノ講師になる要件は、なにも音大、芸大を卒業することばかりではないとのことであるが、同等のレッスンはある程度は必要である。高等学校や中学校の音楽の教員免許は、教科専用であるので、こういった音楽芸術関係の大学を卒業し、かつ教員採用試験に合格しなければならない。
芸術を極めるには、卒業後も、著名なピアニストに師事することも必要で、こういった個人レッスンは非常に高価である。このように計算すれば、一般的なコースをたどっても、ピアノの先生になるには2千万円は最低限必要ということになる。
演奏活動や修練が終わり、ピアノ講師として独立するのは30歳くらいからが多いという。その後30年講師として得ることができる収入は、多い人で年間5百万円。大学などの教授クラスでも、1千万円プレーヤーはそんなに多いほうではない。
小学校教諭生涯賃金 3億
難易度 普通
小学校教諭は子供たちにとって、将来なりたい職業の上位を占める、身近な存在である。教育学部の小学校教諭養成課程の卒業者がほとんどである。冒頭、大学の構成割合で述べたように、国公立大学が多くを占める。教員採用試験の競争率は、年度、地方によっても多少の開きがあるが、おおむね高倍率である。
公立の小学校教諭の年俸は754万円と推定され、生涯賃金は、35年間で3億円に上る。
高等学校教諭生涯賃金 3億
難易度 普通
中学校、高等学校の教員免許は、小学校と異なり、教科ごとの免許であるため、教育学部以外にも、文学部、経済学部、理学部などの卒業者も該当する。したがって、採用試験の競争率は、小学校以上に高倍率である。給与は小学校教諭に比べて、多少は経済面で優遇されるようであるが、あまり差がない。
厚生労働省の賃金統計調査によれば、平均年齢43歳、平均勤続年数15年にして、月額50万円強、年間賞与は200万円、合計年俸は800万円になる。生涯賃金は、やはり3億円程度である。
大学教授生涯賃金 3億5千万
難易度 高い
大学の教授になるためには、大学を卒業することはもちろん、大学院を経て、助手、講師、助教授という階段を上がっていく必要がある。学問、研究、教育が仕事であるのは当然としても、好きでなければ到底勤まるものではない。
同じく、厚生労働省による賃金統計調査によれば、58歳とやや右方にシフトするものの、平均勤続年数は16年、すなわち大学教授の就任年齢は50歳に達する。大学院を卒業後25年もの歳月を要することになる。月額70万円、年間賞与350万円、合計年俸は1300万円。また人事院報告で
は、国立大学の研究職と仮定すれば1400万円で、大差がない。
生涯賃金は、単純計算でいくと4億円にも達するが、実際には教授になれるのは50歳、それ以前は助教授や講師である。このような高給ではないので、仮に助教授の給与が七掛け程度であり、当該地位に達する平均年齢を40歳とし、それ以前は講師、助手であることから推算すれば、生涯賃金は3億数千万円程度であろうか。
公務員生涯賃金 4億
難易度 普通~高い
公務員には、その採用時に、上級職、中級職、初級職という、三つの歴然としたヒエラルキーがあって、待遇も、出世のスピードも大いに異なる。また、国家公務員と地方公務員に二分される。職種によって、多少の収入は異なるが、基本的には人事院の勧告に従う。事務一般職を対象にするが、上級職国家公務員として採用されたものをモデルケースとして記載することにした。
平成18年の毎日新聞紙上、格差社会を取り上げる視点から、国家公務員の給与が人事院裁定で、45歳、本省課長職で1232万円という年俸が掲載されていた。この年齢で本省詰の課長職とは、いわゆるキャリアの平均的な出世形態であるのか。まずはエリートと考えてよいだろう。人事院の給与モデルでは、55歳までは順当に給与が上昇するので、生涯賃金は4億円に近
いものになる。
巷間とりざたされているように、勇退して天下りすれば、もっと多くの収入も期待できるであろう。
二重三重に天下りすれば、膨大な退職金を手にすることができる。この退職金というのは、この国で課税される収入のうち、最も国民に優しい課税率であることを知っておいてほしい。
一方、冷静に上級職国家公務員になるための難易度について考察する必要がある。過去には年間登用者数、800名を超える時代もあったが、省庁再編、小さな政府を目指すご時世から、この数年かの採用人員は500名強である。内、東大の卒業者が一割を占める。
東大卒業生の中でも優秀な者のみが、国家公務員を目指すわけではないだろうが、その逆は成り立ちがたいであろう。したがって、難易度は東大の入学偏差値以上であると考えるべきであろう。また、半数以上を占める東大以外の大学卒業生でも、同じ試験を受けて、同じ基準で採用試験に臨む以上、ほほ難易度は同じであろう。
看護師生涯賃金 2億
難易度 高い
就学に関する費用で述べたように、4年制の看護大学、看護学部を卒業した場合と、高卒で看護専門学校を卒業した場合でも、与えられる国家資格としては同一である。前者は、大学入学時の難易度を単純に偏差値で見れば、私学の歯学部より難しい例もある。看護学校の卒業者との違いはどこに現れるのであろうか。
卒業後の勤務先の違いとして現れるのであろう。すなわち待遇の違いが如実になって現れる。大学病院や、国公立病院、あるいは公的病院の看護職員の給与は、一般的な私立病院でのそれとは大きく異なるのである。前者で600万円、後者で4分の3の450万円である。実際には、公務員としての諸手当、極めて手厚い厚生手当てを勘案すればその差はさらに拡大する。後者では三Kの環境はそのままのことが多い。前者では汚いことは少なく、単に医者の監視役だけの仕事がほとんどであろうか。
何でも、先進国アメリカのまねごとではないが、看護師には歴然としたヒエラルキーがあって、看護業務はすべてアシスタントナースが行う。ナースは何をするのか、それは医者の監視役に徹しているのである。このように日本でも、同一の免許、資格でも選別を導入しようとしているのである。
看護学校卒業者と看護大学卒業者の待遇には大きな違いがある。それは勤務先の違いだけでなく、後述するが、将来、看護職員差別化の伏線になるものと考えられる。
日本看護協会は、看護職員の地位向上を協会の会是として活動してきた。この第一歩が、准看護師制度の撤廃である。地位の低い制度を廃することで、自身の向上を目指すのである。具体的には、准看護師を養成する学校をほぼ全廃することで、同資格者の新規参入を絶った。しかし、看護師70万人弱に対して、准看護師40万人弱が現存する。身内でもあるはずの後者を切り捨ててまでの一連の闘争であろうか。
医師生涯賃金 5億
難易度 高い
今も昔も、高収入が謳われいた職業であることには間違いない。何よりの証拠が医学部入学に際しての難しさである。少なくとも理科系学部では最も高偏差値である。卒業までに要する学費は前節で述べたとおりで高額である。これからはどうであろうか。
実際の医師免許取得後の収入について考察してみる。勤務医と開業医に二分される。また、それ以外に保健行政に携わる者、研究機関に在籍する者もあるが、ごくごく少数派である。医師の総数27万人のうち、個人開業医は7万人と4分の1である。
開業する者は何年かの勤務医を経て、何がしかの専門医となって、あるいは研究業績を上げ、ある程度の修練を経て、自信をつけてからの独立が通例であった。したがって開業の年齢は40歳代半ばであった。いわゆる「銀行が相手をしてくれる最後の年齢」であろうか。
最近の傾向として、これが非常に低年齢化しつつあり、卒後数年から十年程度での開業が増えてきている。一言うまでもなく、医業収入が目的である。いたずらに、研究や専門医としての研績に費やすのは時間の無駄という考え方のようである。体力のあるうちにさっさと独立して、収入を確保したいという現実の表れであろうか。
これには、経済的な側面と心理的な側面があるように思われる。一つには、勤務医の相対的な給与の低さであろう。リスクのない、あるいは非常に低いと考えられる一般的なサラリーマンの給与が著しく向上し、医者よりも高給取りが激増していること。したがって、可及的すみやかに「勤務医を卒業」したくなるような現実にさらされているのである。
心理的な側面としては、目的が開業であれば、専門医としての修練や、研究業績は何の役にも立たないであろう、しからばそのようなことに貴重な時間を費やしている暇はない。このような考え方が支配的になりつつある。その根底にあるものが、大学医局離れ現象ではないだろうか。
何かと指導する立場の先輩医師、教授の影響力の低下が進んできた結果ではないかと考えられる。今後、臨床研修制度により、まったく大学医局に属さずに、すなわちまったく研究生活を送らずに、「一人前」になってゆく医師が増えてくるだろう。そうすればこういう風潮に一層拍車がかかると想像される。
つまりハイリスクの科目や報われにくい、しんどい科目を目指すものがなく
なる。産科、小児科、脳外科の入局者ゼロの大学も続出し、また、都会へ医者が集中する傾向が一層強まった。
全国医学部長病院長会議の地域医療に関する専門委員会報告によれば、脳神経外科への入局者は42パーセント以上の減少。麻酔科、皮膚科は23パーセント以上の増加、形成外科に至ってはなんと40パーセントの増加をみたという。また、人口50万人以下の小都市圏では42パーセントの減少があり、地方での医療過疎化が顕在化した。地域別では四国や北海道では4割以上の減少である。
非常に前置きが長くなったが、医者の生涯賃金についてまとめなければならない。国公立の勤務医の報酬は1500万円程度。一生この地位で行けば25年で、3億5千万円弱に過ぎない。私的病院では、この2割り増しの4億円強である。
40歳で開業すれば、それこそ成功者とそうでない者とでは大きな開きが生ずるが、一般的開業医の診療報酬の最頻値で考えなければならない。すなわち、ごくごく一部の非常に稼ぐ開業医の存在が、全体の収入の平均値を持ち上げてしまうからである。また診療科目ごとによっても多少の開きがあるようである。
厚生諸統計も、このように平均値を基に算出すれば、実態より高く評価されてしまう。平成15年度厚生労働省医療経済実態調査によると、個人診療所の平均収入は、2500万円であり、30年間医業をなせば、6億円程度の生涯賃金となりうる。ただし、ここから、膨大な開業資金や運転資金を捻出するわけである。
実際には、150万円以下の診療所がほとんどであり、中央値も最頻値もそのとおりである。一日患者数も平均40人に過ぎない。これから概算すれば、年間収入は1500万円が相場ということになり、生涯賃金は開業までに1億円、開業後に4億円。合計5億円を超えるに留まる。
薬剤師生涯賃金 4億
難易度 高い
薬学部が6年制になり、履修内容も格段に増えたが、教育費用も5割増しとなった。
国家試験に合格し、薬剤師免許を手にした後の進路は、病院に入り薬剤師として働くか、製薬会社などの企業に就職するかがほとんどであろう。保健行政を担う公務員に採用される例や、検査会社に就職するなどは少数である。薬剤師の総数は24万人。うち個人で薬局を開設しているものは2万人と12分の1である。
日本薬剤師会によれば、23万人の薬剤師のうち、会員数は9万7千人、組織率は4割程度に過ぎない。
調剤薬局を開業したりする例について考えてみる。国家方針のような医薬分業を目指して、非常に調剤薬局が増えた。現在は完全なオーバーストア状態である。
また、分業を後押しする目的で、保険報酬も大きかったが、目的達成後は型のごとく、調剤報酬も削減された。医療費の自然増加の3パーセントに比して、突出した増加率を示す。以前は、一日に処方護が40枚あれば充分成り立つような手厚い報酬であったが、今日では五割増し以上を要するまでになっている。
平均40歳で開業するとして、25年間の報酬は2億円程度であろうか。それまでの勤務薬剤師としての報酬は、十数年間で1億円程度と考えられる。金の集まる方向に人も集まるという大原則から考えれば、近来の薬学部人気は充分に納得できるわけである。
調剤薬局の開業に際しての特徴がある。診療科目によって多少の開きがあるものの、非常に高額な開業資金を要する、医科、歯科とは比べ物にならないほど薬局の開業は安価である。分包機や天秤ばかり以外には特別な装置を要さない。調剤室という個室以外にも特別な設備は不要である。ランニングコストはおおむね人件費のみである。
もちろん、医薬品の販売である限りは、仕入値段と在庫が支出の大部分を占める。したがって、利括追求を目的とする以上、これをいかに合理化するかにかかってくる。このように考えれば、将来ほとんどの薬局が何らかの大手販売会社の傘下に入るか、系列チェーン店になるものと想像される。
生涯賃金という面からのみ考えれば、大手製薬メーカーに就職して定年まで勤めおおせれば、先に述べた、営業杜員よりは報酬は多いはずであるし、定年後も薬剤師免許を生かして、薬局を開業するなり、調剤薬局で勤務するなりすれば、さらに十年以上は報酬が確保される。したがって、同十年間の生涯賃金として4億円は見込めるかもしれない。
また、病院勤務薬剤師として勤め上げた場合、国公立病院と個人病院とでは報酬に大きな開きがある。35年間では恐らく1億円程度の差が生ずる計算になる。
歯科医師生涯賃金 4億
難易度 高い
歯学部6年間の履修の後、国家試験に合格して、数年の勤務医を経て、30歳程度で開業する例が大半である。免許を手にする平均年齢は25歳。要する教育費は、医師の場合と同額である。
現在、歯科医師の総数は9万5千名。この20年間にほぼ数倍増した。このうち主流なのが開業医院の開設者で、6万人。実に6割である。都会の街中にあっては、横丁ごとに歯科医院があり、6万5千の保険歯科医療機関を数える。コンビニより多いとされている。競争は過激というようなものではなく、夜間や休日診療、往診でもなんでもありの診療所も増えてきた。
開業資金も、テナントで切り詰めても3千万円以上は必要である。日本歯科医師会によれば、会員は6万5千名弱で、組織率としては6割程度である。
診療報酬は、医科に比べて七掛け程度の設定であるから、数をこなさなければならない。さらにほとんどの処置が歯科医自身の手によるものばかりであり、一日にこなすことができる患者数も限りがある。
医科に比べて、診療時間は5割以上長く受け付けているのが通例である。
以下の統計は、厚生労働省平成15年度医療経済実態調査によるものである。一日の患者数は40人未満がほとんどであり、20人未満の施設も半数が占める。中央値は30人未満である。医業収支差額、すなわち利益は百万円未満が中央値、最頻値であり4分の1を占める。ごく少数の診療報酬を非常に稼ぐ施設の存在が、利益の平均値を120万円以上と跳ね上げてしまうわけである。
したがって、年間収入は1千万円強が相場ということになる。生涯賃金は、30代前半で開業し、30年以上診療をこなしたとして、4億円を得ることができれば大成功したと考えることができようか。
ただし、そこから膨大な開業資金とランニングコストを捻出するのは、医科医療機関と同じである。さらに、前述したように就学に関する費用は、国公立、私学を問わず、医科とほぼ同額を要する。
獣医師生涯賃金 4億
難易度 高い
職種別分類として、あえて保健関係に挿入したが、あくまでも、管轄は農林省である。昔からの習慣で、大学入学試験の分類で、医・歯・薬・獣医と一括されているから(最近ではこれに保健衛生も含まれる)である。
農学部の獣医学科を6年間履修し、国家試験に合格して獣医となる。免許者は農林大臣である。獣医養成の本来の目的は、畜産である。したがって、大学で学ぶことはほとんど牛馬についてである。現実には、畜産が隆盛を極めているとは言いがたいこの日本で、獣医本来の仕事がそんなにあるわけがない。
学生の入学の目的は、ペットの獣医である。
かつて、獣医学科を卒業後、大学院に進み獣医学科の修士を取得、医学部の大学院に進学して医学博士の学位を目指す例が多い時期があった。このようにして、主に基礎医学の研究教育に従事するのである。クローン研究で何かと世界的に有名になった、ノーベル賞を受賞するよりも名声を博した、韓国の黄教授も獣医出身であった。
最近のペットブームに煽られて、町の犬猫病院は門前市をなすがごとくの盛況振りである。ペットとしての獣医業務はどこで学ぶのだろうか。それは、卒後、既存のペット病院で見習うわけである。自信がついた時点で開業となる。
日本獣医師会によれば、診療報酬を公定することは独占禁止法に抵触するので、個人の自由設定となるとの見解が取られている。逆にこのことは、診療費には上限が設定されないことを意味するので、昨今のペットブームにより高額な医療費を求める動物病院が多く見られるようになってきた。
また、同会の統計によれば、開業獣医の年齢の最頻値は30歳代である。そして開業年数は十年以下が最も多いので、多くは20歳代で開業していることになる。半数が都会での開業である。診療報酬としては、小動物(ペット)に関するものがほとんどで、年間報酬は1500万円が最も多い。ただし5千万円以上と答えた者が14パーセントにも及ぶ。意外に少ないように思えるが、この統計は平成11年度発表である。一例を挙げれば、不妊手術は全国平均で、4万5千円とのことである。現在ではこんな金額であるとはとても考えられない。
開業した場合の収入について考えてみる。無保険の自由診療であるから、診察料は獣医ごとに設定できるが、やはり多少のスタンダードは存在するらしい。小形犬で初診料5千円というのが相場で、薬代や注射代、検査料は別である。しゃぺらないし、診察にはまず協力的な態度が期待できないので手間がかかるが、人間様の初診料、2700円よりはるかに割高である。
日銭は40頭でも診察のみで20万円になる。手術や検査・処置・投薬などを勘案すれば、1ヶ月の水揚げとしては、500万円以上は確保できるかもしれない。利益率を4割とすれば、年間の収入は2千万円以上。実際には毎日40頭も相手にできないであろうから、稼動年数は20年程度とすれば生涯賃金は4億円。加えて、開業までに年収1千万円程度の給与所得があったものとして、10年間で1億円。
合わせて5億円というところになろうか。もっとも、これは成功例のシミュレーションであるが。また、現今のベットブームがいつまで続くかという根本問題もあるのだが。
ペットブームに関して、マイナスの側面もある。なんと医療過誤に関する訴訟が増加しているのである。かつては小動物の患蓄の治療で思わしくない結果となった場合、器物損壊に関しての賠償責任のみであった。しかし、今日ではペットは家族同然であるとして、慰謝料の請求が認定され、これが高額であるとのことである。
飼い主にとっては、家族も同然のペットである。犬を例に取れば、散歩にも服を着せたりすることも珍しくはない。犬は本来、汗腺が無いので、体温調節は呼吸により肺からの水蒸気の排出のみがたよりである。衣装を着せることは、どれほどかの動物にとって非生理的なことかを理解していない。また、散歩道中の排泄は、動物にとっては、自分のテリトリーを保持するための重要な行為である。これが、野原の一軒家にあらざる街中にあっては、住民にとって迷惑、不潔、不愉快な行為以外の何ものでもない。
ペットブームと一概には言えないほどのロングランである。もう十数年は経過しているであろう。
動物病院にもER、つまり救急医療があることをご存知であろうか。また、最近では動物病院の救急車が稼動しているのである。見かけはまったく人間様の救急車とたがわない。この世の中、どこかに「犬公方様」がいらっしゃるのである。
動物の健康保険共済というシステムが稼動している。名称こそ共済としているが、実態は立派な保険業務そのものである。地域や年齢、動物の種類によって掛け金は異なるが、犬で月額1860円から3900円である。一見お得なようでも、年額31万円ほどの保険金である。ペットは家族の一員と信ずる人には、不安を煽られれば、納得してしまいそうな制度である。ちょっと風邪を引いただけで、2万円以上の出費となるご時勢、実に上手い商売を思いついたものである。
診療放射線技師生涯賃金 3億
難易度 普通
病院などでレントゲン検査などの放射線学的検査を行う技師さんである。社団法人日本放射線技師会によれば、会員登録者は、3万1500名であり、これが日本における診療放射線技師の総数である。なぜならば、当該会員を離脱すれば技師の資格を喪失するからである。これまでに述べた「師族」と大きく異なる。弁護士は日本弁護士会に入会することが絶対条件であるが、こういった例は本邦では少ない。宅建業界ぐらいであろうか。ちなみにドイツでは医師会に入会しなければ保健医療は行えない。
さて、この業界でも、日本看護協会のような差別化ヒエラルキーの波がある。アドバンスド放射線技師、シニア放射線技師、マスター放射線技師、の三つのカテゴリーがある。実際には、ヒラの放射線技師があるので、四段階のクラスに分かれることになる。
階級差別はさておき、診療放射線技師の年俸は公的病院と個人病院とでは大きな差異がある。むろん前者のほうがはるかに厚い待遇である。仮に前者で概算すると、生涯賃金は3億円ほどになる。
スポーツ選手
プロ野球選手生涯賃金 2億
難易度 高い
プロ野球の選手の総数、およそ750名。うち一軍登録選手は球団ごとに28名。ただし外国人選手も含まれるので国内選手は7百名弱である。毎年のドラフト会議にかかる新人と入団テストに受かるのがおよそ80名。逆にこれだけの人数が毎年「戦力外通告」を受けているのである。総選手数のうち実に10パーセントである。これから逆算すれば、一人の選手の平均在団年数は9年弱である。
さて、プロ野球の選手になるにはどのような道のりをたどるのか。小学生の低学年からリトルリーグやボーイズリーグで頭角を現した者が、野球名門校に「野球入学」する。高校野球で活躍し、卒業後すぐプロになる者もあるが、大学野球に進むか、社会人野球に進むなりしてから、プロを目指す者もいる。
いずれにせよ、必ず高校野球という日本の野球界独特の「メジャーリーグ」に在籍し、そこで勝ち抜くことがほぼ必須となっている。
したがって、日本高等学校野球連盟、高野連が日本のプロ野球界の母体のような存在であり、これ抜きにして野球は語れない。
平成17年度、高野連のうち硬式部員約16万5千名、他に軟式部員がその10分の1程度在籍している。全国での加盟校およそ4千200校。平均在部員数、39名。しかし高校野球で地方大会を勝ち抜くようないわゆる名門校では、部員数が百名を超える学校がざらにあり、その中でレギュラーの地位を勝ち取るのは至難のことである。もちろん晴れて甲子園出場というのも、それこそ勝って勝って勝ちまくらなければ到達できない。16万5千名のうち甲子園出場は49校、882名、その中でプロ入りは30名ほどである。
この高野連であるが、面白い統計を取っている。ドロップアウトする生徒の割合である。入部して以来、なんと8割以上が卒業までの3年間、野球部員を努め上げるのである。ちょっと信じがたいほどの数字で、これは偉大といわなければならない。野球名門校で「足抜け」できないような環境ならいざ知らず、そうでもない学校がほとんどであろう。高校「球児」とはこれほど野球に打ち込める生徒ばかりとのことである。これは実にすばらしいことではないだろうか。
プロ野球選手の難易度は、単純に高野連に属する三年生の総数、5万人に対して、プロ入団新人が80名として、600というとんでもない数になってしまう。実際には高野連に加盟しているからといって必ずプロを目指すわけではないので、上位高校の一割程度であろう。したがって、難易度はその10分の1の60程度である。
プロ野球の選手の生涯賃金について考察しなくてはならない。先に述べたように、十年弱の勤務年数である。契約更改などで、ニュースになる選手の年俸は、高額な景気のいい話ばかりである。これはごくごく一部の有名選手に限ったことである。こういったスター選手がプロ野球選手の平均年俸を極端に引っ張り上げてしまうのである現実には、二軍選手を含めての平均年俸は、2千万円程度であり、またその平均在団年数は十年弱である。したがって生涯賃金は2億円ということになってしまう。
野球漫画ではないが、「思い込んだら試練の道を」の十年、やっとプロ野球選手の地位を得たとしても、やはり十年しか保つことができないのでは報われない。その報酬は、単年度では多くても、合計では相対的に目減りしてしまう。もっとも退団後の身の振り方によっては、もっと大きい報酬を得る道も開けているわけである。一概に、野球生命のみで生涯賃金を論ずることは適切ではない。
サッカー選手生涯賃金 1億
難易度 高い
サッカーでプロと呼ばれる者は、J1、J2合わせて合計31チーム。選手数は各チーム30名弱で、合計8百名ほどである。毎年百名以上の新人選手がプロ入りを果たす。したがって、平均在団年数は、逆算すれば8年近いことになる。実際には、26歳が登録抹消の平均年齢とされているので、一線で活躍できるのはもっと短い年数である。少数のスター選手が30歳くらいまで活躍しているので、平均在団年数を持ち上げてしまうのである。
同じことは報酬についても当てはまる。ABCの三つの契約カテゴリーに分類されるが、ほとんどの選手と新人選手はC契約であり、その年俸の上限はなんと480万円である。かたやスター選手が何億という年報を手にしている影で、手取30万程度の月給で走り回っている多数の選手たち、これが現実の姿である。
いずれにせよ、Jリーグ入りを果たした900人は、日本のサッカー人口3百万人の頂点である。なんと4千分の1というとんでもない超エリートという計算になる。実際には、プロを目指すサッカー少年は各年齢あたりこんなにいるわけがない。18歳の人口は高々、130万人程度であり、この中でのサッカー競技人口は数万人。この中から百人のプロ入りが出てくるのである。数百分の一という確率である。
具体的には、それぞれのプロチームごとに、ジュニア・ユースチームという下部組織があり、それぞれから昇格して、プロ入りを果たす。それ以外にも、高校サッカークラブからのスカウト、大学チームからのスカウトという道もある。ジュニア・ユースチームに入るということが基本になりそうである。
ジュニア・ユースチームが1028クラブ、4万人以上を擁するのに対して、ユースチームは107クラブ、2500名強しかない。クラブ数で十分の一、選手数では16分の1に選抜されてしまう。確かにエリートである。このユース選手の中からプロ入りできるのは、毎年30名ほどであるという。将棋の世界で言えば奨励会のようなものであろうか。
このために小学生からサッカークラブで活躍して頭角を現すことが必要である。プロ入りまで十年間、これに要する費用と時間はいかばかりか。毎日毎日練習に明け暮れるわけである。日曜日ごとに練習試合がある。親の拘束時間は1週間で、およそ10時間として、時間給1500円で計算すれば、年間50週としても65万円、10年で650万円である。
難易度はユースの2500に対して、30名のプロ選手として、83とした。
生涯賃金は、平均在団年数を7年と甘く見たとして、平均1500万で考えると、1億円程度になる。もちろんこれは選手としての報酬である。20代半ばからの退団後の第二の人生としての報酬は別である。
競輪選手生涯賃金 不明
難易度 高い
競輪選手になるには、日本競輪学校で一年間の訓練を受け、卒業後、国家試験に合格する必要がある。
現在競輪選手として登録されているのは4300百名ほどに達する。募集人員も明らかにされていないので、選手の勤務年数が割り出せない。
日本競輪学校によれば、入学には一般入試と特別選抜入試があり、前者は未経験者、後者は自転車競技の選手を対象としている。ともに高校卒業資格が必要である。興味深いのが一年間の学校生活で、朝の九時から夕方五時まで、昼休みの一時間を除いてずっと自転車である。
全寮制で、携帯電話も持ち込めないし、禁酒禁煙である。一応ギャンブルの選手の養成機関であると思われるが、なんと、賭け事もご法度である。
競輪選手の年俸は次に述べる競艇選手に準ずるものと考えられるが、公的な統計資料がない。また、勤続年数も、競輪学校の一学年の生徒数が二百名足らずということしか分からず、競輪選手の登録人数から逆算すれば20年もの長きになってしまう。
賞金によって収入に非常に大きな差がもたらされる。一くくりに生涯賃金を算定しがたい。競輪学校への入学競争率が公表されていないので、難易度も計算できない。実際に4300人もの選手が、日々レース活動に参加しているわけではないので、ファイトマネーも計算しがたい。
競艇選手生涯賃金 5億
難易度 高い
競艇選手とは、ギャンブルのモーターボート競走の選手であり、全国モーターボート競走会連合会に属する。その上部団体が、あの日本船舶振興会である。競艇選手になるには、傘下の「やまと競艇学校」に入校し、一年間、全寮制での教習を受けて、選手デビューする。
入校資格は、義務教育を終えた者、すなわち中学卒である。
他に何か資格審査があるのかというと、健康診査は当然であるが、男子で体重55キログラム以下、女子で50キログラム以下、男女とも身長170センチメートル以下と、小ぶりな体格であることである。
半期40名の募集で、入校試験の競争率は実に三十数倍である。その中から、実際にプロ選手になれるのは30名である。年間にして60名ほどである。全寮制であるが、年間の寮費は60万円のみである。学費は無料だがヘルメット代金は有償である。
競艇選手の生涯賃金について考えてみる。現在登録されている選手数は1500名(うち女子は130名)である。この中で毎年60名のみが新規登録されるというのであれば、選手生命は25年にも及ぶことになり、ちょっと信じがたいような数字である。
競艇選手の平均年俸は、公式には2千万円というように発表されている。3億円近い年俸を獲得した選手もあれば、賞金だけでも1億円以上の選手が何人もいるとのことである。すべてのプロスポーツ選手に共通することであるが、こういったエース選手が平均年俸を持ち上げているものと考えられる。
少なく見積もっても1500万円程度は稼ぐことができるものとして、また20年以上在籍することができるものとして、生涯賃金は3億円以上ということになる。もしも、本当に平均どおりの2千万円の年俸で、25年ものロングランが可能であれば、5億円である。中学卒で、ヘルメット代金の4万5千円のみが必要な経費とすれば、恐ろしく費用対効果が大きいことになってしまう。ただし難易度は2600名の応募に対して60名の採用ということで、43である。
競馬騎手生涯賃金 不明
難易度 高い
日本中央競馬会競馬学校の定員15名に対して、卒業生は約半数の8名ほどである。
現在騎手として登録されているのは約900名。これでは選手生命は百年以上になってしまう。実際の中央競馬会の騎手はもっと少数のエリートである。定まった報酬というのはないのだそうである。賞金は馬主さんに入金され、そこから褒賞をちょうだいするのだそうである。したがって、生涯賃金というものは算定しがたい。また選手生命も一概に決められそうもない。競馬学校の定員にしても、15歳で自由に馬を操ることが求められるというのであるから、そこまでに達する費用というものは生半可な金額ではないと考えられる。入学の競争率というものも公開されていないので、難易度も算出できない。
その他
調理師
調理師専門学校の就学年間は一定ではなく、またその学費も実に差が大きい。一例として、在阪の専門学校の雄、辻学園の資料を参照した。マスコミ露出度が高く、知名度も高いようである。調理師の免許は、一年間の就学期間により無試験で取得できるそうである。一年コースと二年コースがあり、前者は免許取得まで、後者はエクスターンと称して、実務をかねながら専門職について修養するというものだそうである。
学費であるが、一年コースで205万円、二年コースで370万円を要する。他に物品代として、15万円弱を加算する。和、洋、中華と、何がしかの目的を持って学ぶ以上、二年コースを選ぶとすれば、400万円弱は必要になる。
厚生労働省の産業別給与統計によれば、勤続年数八年、四十二歳で、27万円、年間賞与が45万円と、年俸でおよそ400万円となる。就業可能年数を四十年と仮定して、順調に昇給があったものとすれば、生涯賃金は二億円程度であろうか。統計上の平均年齢の高さのわりに勤続年数が少ないのは、
一店舗に対する定着率の低さを示している。
また、美容・理容業界に次ぐ勤務時間数の長さも特徴的である。この業界でも、見習いのような下積みの期間が長い例が多い。一方で、十代で弟子入りのようにして修行するような例は少なくなりつつある。また、若い世代でのドロップアウトも同様に多いようである。
独立して開業する例も少なくはないと考えられるが、成功例もそうでない場合もあり、獲得報酬は一概には記述しがたい。
理容師・美容師
高校卒業後、理容美容専門学校にて二年間学ぶ。就学費用はおよそ200万円を要す。通学中から理髪店・美容院で「見習い」として就業することが多い。専門学校の放課後は、このようにして、理髪店が終業するまで見習いとして働き、店が終わった後も夜遅くまで練習する熱心な学生が多い。晴れて卒業し、国家試験に合格した後も、同じ理髪店へ就職することも多い。
数年から十年間以上スタッフとして働き、実力がついた後、独立して開業を目指す。複数人の理容師・美容師が勤務する理髪店・美容院では、管理理容師・美容師の資格が必要である。二年以上の実務経験に加えて、所定の試験に合格する必要がある。
収入であるが、厚生労働省発表の産業別給与統計(以下すべての収入はこの統計を準用することとする)によれば、27歳で270万円、年間賞与は13万円弱である。企業規模にもよって収入の差があるが、ほとんどの理髪店・美容院の就業人員は十人以下と考えられるので、該当する統計表から参
照した。
したがって、専門学校卒業後二十年程度で独立するとして、それまでの収入は年間300万円から昇給があるものとしてとして8000万円程度であろうか。独立開業後はそれぞれの才能に応じて収入を得ることになるので、一概に生涯収入を把握するのは困難である。このような勤務年数をこなして独立開業にまで達するのはむしろ少なく、親の稼業を継承する例のほうが多いそうである。また、親との代替わりも二十年程度であろうか。
整容を目的とする職業であるので、自身がファッションリーダーたる資質がなくなるというか、容色が衰えた時点でリタイヤするか、管理的な仕事に専念するようになる。したがって、給与生活としての就業年限は20年程度と概算した。
特徴的なことは、所定内労働時聞が残業時間も含んで月間200時間に達するということである。おそらく最も就業時間の短い航空機操縦者の130時間と対比すれば、その差は大きいと考えられる。冒頭で述べたように、閉店後も夜遅くまで練習に励むという日常であり、ファッション感覚で選んだ職種であるが、現実の修行の厳しさに耐えられず、若い世代でのドロップアウトが多いと聞く。先に述べたように、従業世代が若いことと合わせて、平均年齢が二十七歳と、どのような業種を通じても若年である。
理容師専門学校と美容師専門学校は併設のところがほとんどであるが、応募人員は一対九が平均的なところで、美容師志望が大半である。先述した理由で、美容師の就業年数は理容師に比べて圧倒的に短いそうである。
美容師と理容師が勤務していても、同一店舗内では営業できない。この業界には、あまり根拠のなさそうな規制がある。以前には、よく夫婦で理髪店と美容院が隣り合わせで営業している例があったようだ。この規制の緩和については長年求められていたが、当分実現の見込みはなさそうだ。
鍼灸師
鍼灸師専門学校三年を要する。学費は専門学校で300万円程度である。鍼灸師、正確には鍼師、灸師であるが、どちらの資格も同一人の取得例がほとんどであるので、一括して検討する。厚生労働省の衛生行政報告例によれば、現在、鍼灸師の免許者は七万六千人を数える。残念ながら、厚生労働省の給与統計には、次に述べる柔道整復師とともにノミネートされていない。したがって、給与所得から生涯賃金は推算しづらい。
国家試験の合格者率は八割程度である。数年前までは、毎年二千人、現在では毎年三千人程度の参入がある。
保険診療への参入障壁が大きいため、柔道整復師の倍以上の人口に対して、保険での療養費は昭和61年の54億円から平成15年の134億円にとどまる。それでも18年間で2.5倍に成長したのであるが。次に述べる柔道整復師の場合、保険での療養費は1191億円から2880億円と、18年間での伸び率は同じであるが、桁が一つ大きい。
また後者の就業人口が半分以下であることを考えれば、その差は絶大である。今後の医療保険制度への食い込みに、どれだけ政治力を発揮できるかに将来がかかっているのかもしれない。
柔道整復師
専門学校三年の就学後、国家試験を経て免許を受ける。所要費用は300万円程度である。現在の免許取得者は、平成17年度の衛生行政報告例によれば、3万5千人を数えるのみである。しかし、この数年の整骨院プームに乗って全国に非常に多くの専門学校が開校し、今後の免許取得者の爆発的な増加が見込まれる。数年の勤務で独立開業する例が多い。給与統計には表れていないので収入は把握しにくいし、開業例でも同じである。
規制緩和により柔道整復師の専門学校の入学定員が6倍に増加したため、毎年5千名弱の増加が見込まれる。グラフに示したように、平成16年の3万5千名が、10年後には倍近い7万名近くにまでなることが予想される。
現在のところは、医療保険制度の拡大解釈により、「保険でマッサージを」というキャッチコピーでその市場が急速に拡大した。年間医療費31兆円の1パーセント以上を占めるまでに成長した産業である。医療保険制度ゆえ、当然受療者の一部負担金による通所抑制効果があるはずである。
しかし、一部負担金を正当に徴収していないような施設が多く、自由競争の原理にしたがって受療者を多数集め、高収入を得ている施設も目立つようだ。
一般的な医療、調剤薬局、訪問看護などの医療費は、所轄官庁である厚生労働省が一円単位まで把握している。
年度ごとの統計は実に綿密に取られている。しかしこの柔道整復に関しては、医療保険により請求がなされているにもかかわらず、統計が公表されていない。
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